インナーチャイルドの声を聴こう④

〈第3話〉

私が本当に暴力を振るったのかという事実はわからない。
でも、ひとつわかったことがある。
私は暴力を振るうことは恥であり、罪であると強く思っている。
そんなことをした自分を認めたら、生きていけないからだ。
幼い私が体験した記憶。
父親の言うことを聞いて守ってもらえなければ母と私と妹は生きられなかった。
だから、もし暴力を振るった自分がいるのなら、そんな自分は消し去らないといけない。
そんな自分は認めてはならない。

でも、過去の私が黙っていなかった。
K子ちゃんに噛み付いた私。
あのときは黙って素直に父親の言うことを受け入れた。
もう二度としないと誓った。
でも、なんであの時私はK子ちゃんに噛み付いたのか、その理由をわかってほしかった。
悔しさを押し殺したまま、過去の私は耐え続けていたのだ。
男の人のもとに私を戻したのは、過去の私だった。

私はハッとした。
K子ちゃんに「変だ」と言われた記憶がよみがえった。
K子ちゃんは、私を仲間だと思ってくれていたから、「変だ」と教えてくれたのだ。
仲間という言葉が引っかかる。
父親によく言われた言葉……
「仲良くしなさい」
K子ちゃんは私を自分の仲間にしたかったのか……
それがわかったとき、K子ちゃんに対して、憐れみのような感情がわいた。
私は、K子ちゃんの思いに感謝することを忘れていたと思った。
噛み付いたことを心から謝りたいと思った。
そして、父と母にも私のせいで迷惑をかけたことを謝りたいと思った。
父は、私に仲間を作る大切さを教えたかったのだろうと思った。父のそのことを伝えるための表現はとても怖くて私は受け入れられなかった。K子ちゃんの態度も私は受け入れられなかった。父とK子ちゃんは同じこだわりを持っていたのだとその時わかった。

何よりも、私が私に謝りたいと心から思った。過去の私を罰していたのは私自身だった。
K子ちゃんに噛み付いた私を許せずに、そんな自分がいたことを、その記憶すら消してしまおうとしていた。
次々に起こっていた問題の原因がやっと判明した。
問題を起こしていたのは、あの時の私、K子ちゃんに噛み付いた私だ。

あのときの私に話しかける。
あなたは、中性的なもの、曖昧なものをとても愛しているし、はっきりと決めてしまうことがとても苦手なんだよね。でも、そんな自分がとても大切だと言うことは、ものすごくはっきりしていて、そんな自分が選んで愛したものを拒絶されたことがとても辛かったんだね。
きっと、あなたのお母さんがそういう人なんだよね。そんなお母さんが一緒に選んで買ってくれた101匹わんちゃんの黄色い浮き輪を、変だと言われて悲しかったね…………

ああ、そうだったのか。
私は私の真実を知った。
プカプカ浮いているうちに、私はだいぶ溶けて小さくなってしまった。
まだ手足はあるな、頭もあるな、胴体もある。内蔵は胴体の中だ。
でも問題がある、私は泳げない。
寒くなってこの水面が凍ったら、歩いて岸まで渡ろうか。
ああでも、自分も一緒に凍りついてしまっては動けなくなる。
その前に寒さで心臓が止まってしまうかもしれない。
やっぱり肉体を持つことは大変だなあ。
一度、リセットするしかないのかなあ……

第4話につづく……

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