インナーチャイルドの声を聴こう⑦

〈第6話(最終話)〉

その時だ、私の中からあの男の子の声が聴こえた。
私の中で男の子はこう言った。

僕を否定することは
僕の親を否定することだ
僕の母は
子どものために人生を捧げた
自分のことは全てを後回しにして
子どもに命を捧げた
なのに
時代はそんな母を憎み
否定した
ひどい親とまで罵った
僕は戦った
僕は負けなかった
世界中が僕の母を否定しても
僕は絶対母の味方だ
僕の母は世界一素晴らしいのだと
僕は誇りを持って言える
母は絶対に僕を否定しなかった
僕が間違いを犯したときも
まるごと受け入れてくれた
母は孤高の人だ
誰にも汚させない
僕が守る
死ぬまで守る
死んでも守る
…………

男の子の声が消えた時
私は死海に一人で浮いていた。
ちゃんと体があった。
私はちゃんと大人の女性の体で、大の字になって浮いていた。

ああ、あの男の子は父親なのだと気づいた。私が母を守りたかったように、父親も母を守ろうとしていたのだ。私に自分を投影して、仲間である友達に噛み付いてお母さんを困らせるなと言っていたのだ。そんな男の子だった父親が、今度は男の人になって現実の私の目の前に現れた。あのとき、K子ちゃんに噛み付いた私を、本当は「そのままでいい」と言いたかったのだとわかった。

私は今、このプカプカ浮いてる水面の世界が好きだ。
これ以上重たくなって、沈む日はもうないだろう。
その代わり、また日に日に、少しずつ私は溶けている。
このままいけば、いつかはこの肉体の全てが溶けて水のようになってしまうだろう。
私はプカプカ浮きながら、潜在意識の声を聴いている。

潜在意識に聴いてみる。
私は何を望んでいるのか、
答えはいつも決まっている
「私は帰りたい」
どこに帰りたいのだ?
そうだ、この体を体験したくて
私は生まれたのだった。
私がまだ潜在意識だった頃、
人間の体として生きることは素晴らしいのだと信じていた。
その感覚を体験しに生まれたのだった。
そして、私はこの体で喜びを体験した。
でも、いつまでもその喜びに浸っていられなかった。
私はこの体で苦しみも体験した。
それからだ、「帰りたい」という声が聴こえだしたのは。
潜在意識だった頃の、あの自然と一体だった頃の、宇宙と一体だった頃の、あの頃の私に帰りたいという声が。

でも、その前にやらなきゃいけないことがあるのだ。
この体があるうちに、少しでもこの世から苦しみが減って、今生きている仲間たちが地球に住みやすくなるように、働かなくてはならない。
いつか、潜在意識に帰ったときに、人間の体として生まれる前の魂たちに、「人間の体として生まれることは素晴らしいのだ、地球のために役に立つことは素晴らしいのだ」と伝えるために。
愛する人と触れ合う喜び、
美味しいものを味わう喜び、
私はかつて、この喜びの感覚に憧れていた。
そして、命を生み出す喜び。
仲間がいる喜び。
音、香り、景色、
美しいものに出会う喜び。
この喜びを感じたときに、
これを守らなければならないのだと悟った。
苦しみで立ち止まって引き返してはならない。
帰ったら、きっとそのことを忘れてしまう。
たとえ生まれ変わっても、また同じことを繰り返してしまう。
だから、帰るのはもう少し先にする。
まだできることがある。
私には、まだできることがある。
心は決まった。
この、残りの命を使って、使い尽くして、私はもと来たところへ還る。
どうぞ、母なる地球のためにお役に立てますように。
そのために、苦しみを知ろう。
今、この地球にどんな苦しみがあるのかを知ろう。
そのために、喜びを知ろう。
今、この地球にどんな喜びがあるのかを知ろう。
私は自分をしっかり保っていこう。
私は平和をしっかり保っていこう。
きっと、人類は私と同じ目標に向かって進んでいるのだと信じて、
目の前のことに集中しよう。
今、ここに集中しよう。

             おしまい

あとがきにつづく……

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