感情の好き嫌いの克服
受け入れ難い感情を受け入れようとすることは、食べ物の好き嫌いを克服することと似ている。
「好き嫌いせずに何でも食べなさい」
という教育は、長年日本で良いとされてきたが、昨今生まれつきアレルギー体質の人や宗教上の理由などで食べられない人の存在が広く知られるようになり、何でも食べられるのが良いという考え方は変わってきている。
しかし、食べ物でも感情でも、それが単なる好き嫌いなのか、そもそも改善改良可能なものなのかの判断は難しい。
感情をコントロールするということがよく言われるが、そもそも感情はそれのみではコントロールできないものであると私は考えている、感情は受け入れるか、もしくは拒否するしかできない。そして、感情をコントロールするためには、まず受け入れなければそれを扱うことはできない。
受け入れてから、思考でコントロールするのである。
感情を受け入れる習慣と思考でコントロールする習慣を身につけることが、感情をコントロールするということになると思う。
料理も素材がなければ作れない。
その素材が良ければ良いものも作ることができる、しかし作る技術がなければ料理にはならない。
感情も同じことだ。
良い素材はそのまま食べても美味しいように、良い感情はそのまま受け入れることができる。
一方、悪い素材でも工夫すれば美味しい料理になりうるように、悪い感情も思考で料理(コントロール)すれば素晴らしい作品になりうることもある。
そこで要なのが、表現である。
表現とは、客観化することである。
良い表現と悪い表現という垣根を取っぱらって、私の表現、私達の表現とすることによって、良い悪いが共存することができるのだ。
これこそが多様性だと思う。
多様性とは、表現の多様性だと私は思う。
それが認められていると思えば、安心して人とコミュニケーションがとれる。
何をしても、何を発信しても、何を聞いても、許される。
表現力を磨く方法は色々あるが、アート療法を取り入れることもそのひとつだ。
数あるアート療法のひとつに、箱庭セラピーがある。
一流のアーティストはなれなくても、誰でもすぐにアーティストになれるのが箱庭の良いところだ。
子どもはごっこ遊びをよくする。
大人のやることを遊びで真似て、疑似体験するのである。
これは、大人になる練習でもある。
箱庭は自分ごっこである。
自分の表現を自分で受け入れる練習をしていくのだ。
そうすることで、子どもが大人になるように、自分が自分になっていく。
最近は、感情を受け入れられない人も多い。これは、ある意味断食の状態である。感情のコントロールができない人は、こうしてたまにファスティングして悪いものをデトックスしなければならないからだろう。
しかし、その後にしっかり栄養バランスの良い食事を取れなければ、また同じことを繰り返すことになる。
良い素材を作ることは本当に大切だ、しかし、この物質社会には「良い」の裏には「悪い」が必ずある。
断言するが、今は良くても必ず悪くなるときが来る。
感情は物質ではないのだが、人が物質である限り、多くはこの一方向の法則に当てはまることになる。
良い素材も悪い素材になるし、良い感情も悪い感情になる。
だから、世の中には感情の料理人が必要だと思う。
どんな感情でも素晴らしい表現に変えてしまう人。
それはやはり、アーティストだろう。
この日本に、この世界に、一流のアーティストがたくさん生まれることを願っている。
箱庭は感情の料理人達、すなわちアーティストがクリエイトしやすいように、場を整える清掃員のような役割でもあると思う。
ネガティブな感情を受け入れて流してくれる。流された感情は箱庭の世界を循環してポジティブな感情に再生することができる。
感情の好き嫌いを克服できると、例えば人と関わる恐怖は消える。
そこに気づけるのも、箱庭セラピーである。
恐怖心とは、破壊に進む感情である。
罪悪感、劣等感、妬み、嫉み、恨み。
これらの感情は恐怖心となりやすい。
平和な世の中を作るためには、これらの感情の扱いに注意して、恐怖心から破壊に進む過程を食い止めなければならない。
恐怖心は、破壊的な表現によって浄化されるという側面がある。
例えば、箱庭で思い切り破壊的な表現をしても、現実は何も変わらない。
なのに、感情が浄化されるので恐怖心は消えるのである。
一流のアーティストは、他者から賞賛されるほどの表現力を持っているので、その浄化能力はものすごいのだ。
しかし、それでもそこに競争意識や行き過ぎた向上心が伴うと、恐怖心が湧き上がってくるだろう。
そういった人達は、その恐怖心を吐き出してポジティブな感情にしていける箱庭のような場が、自分の中にしっかり整っているのだ。
一流でも、アーティストでもない一般人の私達でも、箱庭があればどんな表現をしても、箱庭がしっかり受け入れて整える手助けをしてくれる。
だから、受け入れ難い感情が出てきても箱庭があれば怖くないのだ。
もし、感情の好き嫌いで悩んでいるのなら一度箱庭セラピーを試してほしい。
もし、感情をコントロールできないと悩んでいるのなら、その悩みごと箱庭に吐き出して一旦手放してみてほしい。
きっと大切な何かに気づけるはずだ。