インナーチャイルドの声を聴こう③

〈第2話〉

それから大人になって、私は子どもを産んだ。
生まれてはじめて、守りたいものが私の目の前に現れた。
その頃から、説明のできないことが自分に次々に起こり始めた。
気がつくと私は魔法のように、欲しい物を次々に手に入れていた。
愛しい子ども達、子ども達を通じてできた友達、日々の家の仕事、楽しい家族と過ごす時間。
私はとても満たされていた。
欲しい物は私の分身と同じだった。
だから大切にした。大切にすることは愛することだった。愛することは、喜びだった。私は喜びがもっと欲しくなった。そのために欲しい物を求めては自分の分身として愛した。
私は自分の分身という仲間をたくさん増やしていった。自分の分身が増えていくに連れて、私は本当の自分がどこにあるのかを見失ってしまった。
そしてとうとう、私は本当の自分と離れ離れになってしまった。

本当の自分を失った私は、他人に動かされる人形のようになった。私の体は他人の欲や願望を叶えるために使われた。それを自分の欲や願望だと思い込んだ。
欲や願望を叶える喜びを感じたくて、私は次々に餓えているものたちがいる場所に入ってしまった。
飢えているもの、それはまさに餓鬼だった。私は餓鬼のいる地獄、餓鬼地獄にはまり込み、そこから出られずにいた……
そのうちに私はどんどん餓鬼っぽくなり、餓鬼っぽい過ちを犯した。
餓鬼っぽい、いや、あれは餓鬼そのものだ……一人の餓鬼に狙われてしまい、身も心も捧げてしまった。
気がついたときは遅かった。
私は大切な家族との生活や自分の居場所を失ってしまった。

私は絶望した。
そして孤独になった。

でもそのとき、私は生まれて初めて自由になった。

自由になった私は、プカプカプカプカと浮いて生きていた。

そんな私を、「そのままでいい」という人物がいた。
唯一私の側にいた男の人だ。
そのままでいいと言われて私はその男の人に好意を持った。
すると、その男の人は私のことが好きだと言った。
好きだと言われて私は嬉しくなった。
私は彼の側にいるようになった。

ある日のこと、彼と些細な事で口論になった。彼は私のことを「変だ」と言った。私は反論した、彼も引かなかった、大喧嘩になった。そして彼は信じられないある行動を取った。私が暴れて被害にあったと警察を呼んだのだ。
でも、そうまでされても私には暴力を振るった記憶と自覚がなかった。
だからハメられたと思った。
男は嘘つきだと疑った。
私はその男の人を心底憎んだ。
私はその男の人に詰め寄った、男はしつこいと怒鳴った、そして私は突き飛ばされて頭を打った。とっさに私はものすごい危機感を覚えてその場から逃げた。私はその男の人から逃げるために両親のもとに行き、この男にひどい暴力を振るわれたのだと訴えた。
両親は私を信じて守ってくれた。
男を追い返してくれた。
なのに、私はまたその男の人のもとに帰った……
本当にその人が私に暴力を振るったわけではないと、信じたかったし、本当はそんな人ではないとなぜか知っていた。
父親はとても驚いていたが、止めなかった。
でも帰ったものの、やっぱりされたことは許せない、あの人は変だ。
「あなた、変だよ」
その時の私はそう言いたかった……

第3話につづく……

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